登山の初心者や知識の少ない方は、登山に適した服装がどういうものか、わからない方も多いのではないでしょうか。
登山に適した服装というのは、単にあったかい格好であったり運動着であればよいというわけではありません。
また、何度か登山をされた方でも、実際に山に行ったときに「思ったよりも寒かった」「暑かった」「あれがなくて困った」など不便・不快な思いをされた方もいるのではないかと思います。
逆に、あれもこれもと、実はそこまで必要ないものを持っていってしまい、荷物が多くなってしまうという方もいるようです。
適切な服装選びができていないことで不便・不快な思いをするだけならまだしも、誤った服装により例えば夏でも低体温症になる可能性もあるなど、重大な結果を招きかねません。
そこで本稿では、登山に適した服装とは何か、服装選びをする際に注意すべき点は何か、その基本的な考え方を理解することで、山での不便・不快・危険を軽減する手助けになればと思います。
ポイント1. 登山で求められる服装と日常での服装の3つの違いを理解する
そもそも、街での一般生活と登山では何が違うのか、ウエアという点に絞って考えてみると次の3点に集約されます。この違いを理解することで、山での服装に求められる機能がよく理解できます。
1. 登山は濡れる
自分は晴れた日しか登山しないと思っていても、山では濡れることから逃げられません。汗をかく、露や霧に会う、夕立に会う、平地は晴でも山は天気が崩れる、などがその理由です。
濡れたウエアは重いし、風が吹くと体が冷えて体力を消耗させます。空気は熱を伝えにくいが水は熱伝導率が高いので大量の体温を奪ってしまいます。
そのため吸湿性や吸水性が少なく、速乾性に優れた素材を選ぶことが重要です。濡れた時ゴワゴワして運動を邪魔する素材はもっての外、ということになります。
2. 山は気温変化が激しい
気温は高度が 100m上る毎に約 0.6°C低下するので、1,000mも登れば6℃も違います。そのため登山口で暑くても山頂に近づくと寒くなります。
さらに、体感温度は風速が 1m/s 増える毎に 1°C下るので、山頂付近の風が強い所では夏でもかなり寒いことがわかります。その上、山の天気は崩れ易く、いつ雨が降ってもおかしくありません。
これらの刻々変化する気象条件に加えて、登山中は行動の変化でも暑くなったり寒くなったりするため、薄いウエアを何枚も重ね着する考え方が良く、状況に合わせてこまめに着たり脱いだりすることが重要になります。
ウエアは薄くても保温性が良くなければいけないし、外着には防風性が求められます。
3. 登山ではすべての荷物を自分で背負う
街では寒くなったらタンスから出して着込み、濡れたウエアはすぐに取替えれば良いのですが、山でそうはいきません。しかし、あれこれ考えてたくさん背負って行ったら重 くて歩けないのは明白ですね。
着替えて濡れた下着をビニール袋に入れて背負う初心者がいると聞いたことがありますが、濡れた物は重量が増えて体力を消耗させます。ですので、山では着たまま乾かしてしまう考え方が大切で、その為には濡れても保温性があり、吸水性が少なくて重くならない素材が望ましいことになります。
また、汗が皮膚から蒸発する際に多量の気化熱を奪い、休憩時に体が冷えるので速乾性のある素材も求められます。
ポイント2. ウェアの素材とその特徴を理解する
ウエアを作る繊維は天然繊維と化学繊維に分けられます。
天然繊維にはコットン(綿)・ ヘンプ(麻)の植物繊維とウール(毛)・シルク(絹)・ダウン(羽毛)の動物繊維があります。
化学繊維にはナイロン・ポリエステル・ポリウレタン・ビニロン・アクリルの 合成繊維とレーヨン・キュプラの再生繊維があります。最近は特殊な構造を持った合成繊維の研究が進み、年々新しいタイプが生まれています。
登山ウエアに限っていえば、 天然繊維より化学繊維に軍配が上がりますが、化学繊維の中でどの繊維が良いかは一概に言えません。メーカーが競って新しいものを出すので、購入する時点で店の人の話を聞くのが一番です。
主な繊維の特徴
コットン(綿)
肌ざわりが良く、丈夫で染色し易いが、濡れると水で飽和状態になって体を冷やし、乾くのに時間がかかる。ジーパンはコットンを素材にしているから登山には不向きで、濡れると重い・乾かない・ゴワゴワ して歩きにくい等の悪条件をたくさん備えている。
ウール(毛)
肌ざわりが良く、弾力性や強さがあり、濡れても繊維の層に気泡を溜 めるので保温効果が失われにくい。しかし、かさばって重いのに加えて価格で負けるので合成繊維にかなわない。
合成繊維
開発者たちのたゆまぬ努力によって機能性に優れたウエアが生まれ続 けている。軽量・強靭で吸湿性や吸水性が少なく、弾力性・速乾性・ 保温性に優れた素材の開発競争が今後も進む
ポイント3. 必要なウェア一覧とそれぞれの目的や重視すべきポイントを理解する
ここまでで、登山のウェアに関する基本的な考え方は理解できたと思います。
最後にパーツごとに要点を整理しましたので、登山の準備の際の参考になればと思います。
下着(ベースレイヤー)
体の冷えを防ぐのが目的で、汗を溜めてはいけないので綿は駄目。綿10%というのも駄目で綿は 0% でなければなりません。暑い時はTシャツ 1 枚で行動するので女性 は色の濃いものが良く、男性のブリーフも濃い色の方が何かと安心です。
中着(ミドルレイヤー)
保温が目的で行動着とも言われます。重ね着する時は薄い中着を重ねる。昔から夏でも長袖が基本と言われていたりもしますが、それは個人の自由ということでかまいません。長袖派はススキ・アザミ・枝で、すり傷・切り傷が出来ると言い、半袖派は暑くて苦痛だし、大怪我は長袖でも一緒と言います。
外着(アウター)
防風・防水、等外部からの影響を防ぐのが目的でアウターとも言います。雪山と言えども防寒性はほどほどにしないと暑くてたまらない。
雨具(レインウェア)
ゴアテックスに代表される透湿性防水素材が良い。登山は汗をかくので透湿性がないと蒸れて暑くなり不快感を感じます。また、上下セパレート型でないと不便なことが多いです。
靴
登山形態によって様々な靴があり、その人の上達度や好みによっても分かれるのが登山靴です。時には足首保護や防水性さえ無視して軽量化を優先することもあり、一概に登山靴はこれが良いとは言えません。
ハイカットの靴は初心者の技術不足を補ってくれますが、ベテランが色々な技を駆使するには不向きでもあります。自分の状況を話して店の人に相談するのが一番です。
これから長く登山を続ける人は一種類の靴だけで済むはずが無いので、初めは標準的な登山靴が無難で、慣れてきて、自分で判断できるようになったら、山行形態に応じて買い足していきましょう。
靴下
靴の性能が良くなったので、靴下にクッション性や過度の保温性を期待しなくて良いです。昔のように靴下を 2 枚履く必要はなく、靴擦れ予防を考えて厚手のものを1枚履く。やはり綿は駄目で、汗で濡れて“冷え”や “まめ”の原因になります。
スパッツ
夏山ではどうやらファッションで付けている人もいそうです。本来は雪の中に足がもぐった後、抜く時雪が靴に入るから付ける物でした。最近は雨の日やぬかるみ 歩く時、ズボンの裾を汚さないように付けるが目的となっていますが、蒸れてうっとうしいので無くても良いと思います。雨がズボンを伝わって靴に入るのを防ぐと言う人もいますが、スパッツが無くても工夫次第でそれは防げると思います。
手袋
標高が上って風雨があると夏でも冷たいから、高い山には持っていこう。夏山では、麓が暑いから初心者がよく忘れます。軍手は綿製品だからやはり駄目で、ウールか化学繊維が良い。ウールは洗うと縮むので少し大きめの物を買うと良い。
帽子
夏は日差しを防ぐのが目的だから、軽くてツバの大きい物が良い。電車の中や街では脱いで持ち歩くので、ザックに入れられる形だと便利です。冬は毛糸の帽子が暖かい。
着替え
軽量化を考えて最低限にすること。帰りに入浴するならタオルも必要です。
ザックカバー
雨でザックが濡れると重くなるから付けます。しかし、サイズが大き過ぎると、風の強い所・岩山・枝が張り出している所などでは邪魔になり、ときには事故の原因になるから注意しよう。
サングラス
安いサングラスは紫外線をカットしないばかりか、暗くするから瞳孔が開 いて雪目を助長してしまいます。購入する時は紫外線カット率を確かめよう。